第6回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作で、実質作者のデビュー作ですね。高野氏の作品はSFマガジンや異形コレクションの短編をいくつか読んではいるのですが、長編を読むのは初めてです。
19世紀の欧州の音楽界の状況を下地にした音楽史改変SFで、この時代に打ち込み音楽が可能だったら、というアイデアを軸に話が進んでいきます。
オーケストラとの不和で、自分のやりたい音楽が表現できないと嘆く若き音楽家フランツ。そこに怪しい英国貴族・セントルークス卿が、楽団無しで音楽を演奏する方法がある、と誘って、フランツを怪しい世界に引きこんできます。深みに嵌ったフランツが最後に見るものとは・・・?
作者のデビュー作だけあって、展開に少し難のある部分もありますが(唐突に判明するマリアの正体とか)、最後の章まで飽きることなく愉しむことができました。
閉鎖的で陰鬱な二章から一転して、開放的で派手な展開になる三章、という流れ自体が、音楽小説らしく協奏曲を模している感じで面白いです。
(原文2010/10/17)