『グローリアーナ』 マイケル・ムアコック

『エルリック・サーガ』で有名な作者の架空歴史ファンタジー。

舞台はエリザベス1世時代によく似たパラレル世界のイギリス。この世界のイギリスは『アルビオン(ブリテン島の古名)』と呼ばれており、史実より二百年くらい早く、世界のほぼ半分を支配する大植民地帝国になっています。
アラビア・アジア沿岸地方のほとんどが保護国、インドと中国は保護領となっており、アメリカも独立することなく、『ヴァージニア大陸領』としてアルビオンの統治下にあります。(支配面積からすると史実の大英帝国より +中国・アメリカ の分大きい。某ブリタニア帝国と同じくらいかな?)

その他の地域の歴史も変更が入っていて、まずロシア~中央アジアは『タタール帝国』というモンゴル・カザン系統一国家に。(たぶんモンゴル帝国の後、ロシアが「タタールのくびき」から逃れられないまま、遊牧民文化に取り込まれちゃったのでしょう)


欧州大陸側は、ポーランドが史実通り大国になっていますが、フランスやドイツ(神聖ローマ帝国)は存在しないっぽい。あと、イベリア半島の国とアルビオンが対立しているみたいですが、史実のカスティーリャ&アラゴン(スペイン)とはまた別の国家のようです。


スペインの勢力が振るわなかったせいなのか、新大陸ではアステカ帝国が滅びることなく繁栄しており、ヴァージニア大陸領とスー族などのアメリカ先住民はそれなりに友好的に共存している様子。

あともうひとつ、史実との重大な違いとして、おそらくキリスト教が存在していない(!)という点があげられます。

主人公はアルビオンの頂点に君臨する若き女王グローリアーナ。
残虐非道な先王とはうって変わって、平和共栄策で世界を治め、黄金時代の女神と讃えられるグローリアーナですが、彼女自身は(本来わりと悪戯めいた性格であるせいか)女王としての重責に押しつぶされそうになっています。

責任を分け合う伴侶となるべき人を探すにも、(史実のエリザベス1世と同じように)結婚相手は政治的問題が大きすぎて簡単には決定できず、独身主義的にならざるを得ない、というジレンマに陥っている状況。


そんなところに現れた元・アルビオンの間諜キャプテン・クワイア。金や名誉のためでなく、完全な悪を「作品」として成すことに生きがいを見出しているクワイアは、アルビオンとの縁が切れたのをきっかけに、強固極まりない大帝国アルビオンを完全崩壊させるという野望を抱き、裏で策動し始めます。


中盤までは黄金時代の頽廃的な雰囲気が蔓延して、夢のような時間が続くのですが、ごくささいなきっかけから、なし崩し的に堕落と崩壊が始まります。帝国内のあちこちで戦乱と叛乱の火種が噴出する中、クワイアはすべてを裏で操りながら、素知らぬ顔で女王グローリアーナの愛人の座におさまります。


内部から外部からじわじわと策謀の網を張り巡らし、ドミノ倒しの如く、あとひと押しで大崩壊が起こるというまさにそのとき、今度はクワイアが思ってもいなかった要素によって、国家転覆の策略がご破算になります。


このあたりの逆転劇がなかなか面白い。


その後、アルビオンは再び平和になってめでたしめでたし……とはならず、衝撃の展開が待ち受けています!


別にクワイアが策動しなくても、クワイアが現れる前のグローリアーナの病み具合を考えると、別の形でアルビオンに破滅が起こった可能性は高かったでしょう。
そう考えると、クワイアのやったことは、女王とアルビオンをある意味救ったのかもしれません。


悪の華クワイアとの対立軸として大法官のモントファルコンがいるわけですが、彼は『国の安定と平和のためにありとあらゆる悪事をなす人』であり、この作品の構図は実は悪vs悪なのですよね。(ムアコックの作品はだいたいそうなのかもしれませんが)
グローリアーナも「内に宿る残虐な血の裏返しとして善政を布いている人」だったりしますし、悪人ばかりです。

清く正しく可愛いのは女王秘書のウーナと、変態ジジイのジョン・ディー博士(一応実在の人)くらいですね。ディー博士面白すぎです。

 

ちなみにアルビオン宮殿のモデルはゴーメンガースト城だそうですが、地下にあんな暗黒大迷宮が広がっている宮殿に、よく安心して住めるものだと思ったり。
でも、RPGなんかではああいう設定多いから(Wizardryのリルガミンとか)、ファンタジー世界としては一般的な設定なのかな。


(2009/10/22)

投稿者: shirone_koma

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